とは請け負ったものの、ジョーカーは服を縫いながら自分で言った「小姓というにはとうが立ちすぎている」という言葉を今更に気にしていた。しかも、よくよく考えれば神官など、猥雑な自分にはふさわしくないのではないかとも。二人は杖の腕を褒めたが、ジョーカー本人はなぜ杖が自分に応えるのかわからないくらいに思っていた。
暗夜の良家の子女や上級使用人などが、行儀や最低限の軍人としての振る舞いの見習いにロッドナイトとして学ぶとき、杖の道はまず神を敬いその慈悲の心に共鳴することだと教えられる。もちろんジョーカーは神など知るか俺の神はカムイ様だと思ってはばからなかったし、慈悲ではなく主と主に役立つものを癒すための力が欲しかっただけだった。加えてカムイは少年王なのだから、なおさら小姓とは無垢で愛らしく、かつ清い心を持った……、ちょうどサクラ王女などがそのまま少年になったようなのがふさわしいのではないだろうか?
「ジョーカー、大祭の服はできた?できたら着てみせてね。すごく楽しみなんだ」
白い裸の肩に頬ずりしながらカムイは言った。外はまた激しい雨と雷だ。二人で湯気がたつほど絡み合う寝台の横には、カムイの気に入った透魔の花の精油の入ったランプが灯っている。まぐわうとき人為的な光に照らされることをジョーカーは恥じらった。
「お望みなら、いくらでもお見せしますが。……でも、楽しみにされるようなものでは、きっと……」
下にいるカムイが脚をはさんでこすり合わせてきてジョーカーはそれだけでぷるぷると震えた。書庫の医学書から得てきたオイルマッサージの技をカムイはとても気に入り、すごくジョーカーとくっついてる感じがする、と最終的にはいつもこうして全身で全身をこすり合うようになってマッサージも何もなくなってしまうのだった。
「……あ。あうぅ……」
せつなくなってきてもぞもぞと股間を押し付けるとカムイは少し体をずらして動きを止めた。入れてくれない。合わせて擦らせてくれない。焦らさないでくださいませ、と言葉にせずにジョーカーは恨めしそうな声を出した。
相手の感覚を察するのが得意なのか、カムイはここから、というときの寸止めがうまい。もうどれだけの時間こうしているだろうか。このまま一晩中だって、遠火のように一定の熱さのままぬるぬるに絡み合っていられそうだ。
それ自体は気が遠くなるほど嬉しいことなのだが。ここのところ、カムイはジョーカーを激しく抱かない。
竜の姿ではもちろん、人の姿でさえそうだ。ただこうしていちゃいちゃとしながら眠ることが多い。とても愛されているのはわかる。わかるのだが、愛や恋と性的に「そそる」ということはときに別物だろう。カムイ様は俺に、実はあまりぐっとこないんじゃないか?――と、いうのが、もろもろの「カムイ様の小姓というにはふさわしくないのでは」のおこりとなる疑問であった。
「カムイ様……、カムイ様は……」
「……ん……?」
宝玉を磨くように、オイルで白い背や肩を撫でながらカムイは緩慢に返事をした。
「カムイ様は、男性、ですし、お若くていらっしゃいますし。しかも竜でいらっしゃいます」
「うん……?」
「だから、その、私……は、あの、私の体には、そんなにご興味が」
言い出してはみたもののカムイに伝わる言葉を選ぼうとしてしどろもどろになってしまった。案の定カムイはよくわからない、という仕草をした。ジョーカーも「自分の容貌は相手にとってそそるか」などという疑問を持つこと自体初めてだったので戸惑い、なんとかかんとか説明した。時間はたっぷりあった。
「僕がジョーカーにドキドキするかってこと?それがわからなくてすねてるの」
「すねてなどおりません」
言いたいことが概ね伝わるとカムイは、ジョーカーは頭がいいのに僕のこととなるとたまにばかだなあと笑った。
「じゃあジョーカー、これはなに?」
手を導かれてびくりとした。表情は落ち着いているように見えるカムイのものは、体で触れて感じていたよりずっと熱くかたちをもっていた。一瞬でかっと頭がとろけそうになって、頬が染まる。それを見てか、さらにどくどくと陽根に血が集まってくる。
「あ……あ……カムイ様……、カムイ様の……雄々しくそそり立っていらっしゃる、熱い剣です……」
「そう。こうなったのは誰とくっついてるからなの」
「お、俺です」
おずおずと答えるとカムイはやわらかく微笑む。その笑みに一切威張るようなところがなく、分身の猛りもどこ吹く風といったふうに穏やかなものだから、かえって老獪な王者の表情に見えてジョーカーはぞくぞくしてしまう。
「たくさん触って。ジョーカーに触られたい」
許しを得てジョーカーは犬のように飛びついた。しごきたてるたびぬるぬると指までも気持ちがいい花の香りの油と、興奮したカムイの甘いにおいが混じりひどく官能的だ。精油を口に入れてしまうとカムイが心配するので舌先で尿道口だけをくじり、間近でにおいを嗅ぐ。
「んっ……んは、ああ、カムイ、さま、んんっ、いいにおいです……いい……、カムイ様の、味が、します……」
「あっ、あぁ、ジョーカー。ジョーカー、すき、大好きっ、も、出るぅ……!」
「はい、くださいっ、あっ、んぁ……あ……!」
ジョーカーの口を開けて待ち構えた舌にカムイは精を放った。その濃厚なあたたかさにジョーカーは先程まで何を考えていたのか吹っ飛んでしまって、ゆっくりと味わって飲み下しながら自分もカムイの手で上りつめさせられた。結局また、そのままぴったりと寄り添って眠ってしまった。

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