投げ出された体ににじり寄り、いつも以上にそうっと触った。
女性の肌は薄かろうから、山ほど舌打ちをされながら乳首への触り方を直されたことを念頭に置いて、布ごしにむにむにと触る。たどたどしい動きを睥睨してしばらく吟味し、ひっかかるように止まったところでホメロスは息を吐いた。
「ふぅ……ん……」
「い、痛かったか!?」
「いや、……そうビクつくな、緊張しすぎて手がガチガチだぞ。おまえの指はただでさえ硬いのだ、動きだけでもやわらかくなめらかにして……、掌で、ゆっくり触れろ」
「こうか」
グレイグは乳房の脇に、手の根から掌を押し当てた。手のくぼみに空間をあけたくないと無意識に手を反らしたりなどしたが、心配はなく柔らかい肉はふんわりとてのひらに添った。ホメロスは目を閉じて、息を深く吐く。眉根を寄せて目を閉じ続けている表情は機嫌が悪いのか感じているのかよくわからない。別の場所にも掌を押し当てていくと、布ごしにもホメロスの体が少し冷たいとわかった。いつもより筋肉の量が少ないからかもしれない。じっくり待って体温を移らせるようにすると、そのたびにホメロスはくちびるをなまめかしく開いて息を吐き出した。あたたかくて気持ちがいいと思ってくれているのかもしれないと考えて愛おしくなる。
お互いに力が抜けてきて、ホメロスは薄目をひらき、ゆるく講釈をしはじめた。
「おまえは指先が荒いから、指はへたにわきわき動かさぬがいい。掌と、指なら甲側の……、そう、猫の手も、いいだろう……。
触れていないかもしれんという弱い触れ方で手の高さを固定して、円を描け。描きながら少しずつ移動させろ。指を動かして揉んだりつねったりしたいのはしばらく我慢しろ」
「……こうか……」
「……悪くないだろう。いいと言うまで同じようにしろ。根気をもて。女を抱くときは時間がかかることに焦るな。気を散らさせる」
グレイグはなぜかそこで顔を緩ませて眉を下げ、ほにゃと笑った。ホメロスは反射的に斜に構え、睨みつける。
「……何がおかしい。おとなしく組み敷かれている弱い俺がそんなに笑えるか?」
「む、笑ってはいない。あのときもそうしておまえに女性の扱いを教授してもらったと思い出してな……。わけがわからんな……」
「わけがわからんのは俺だ。チッ、なぜおまえに女の抱き方など教えてやらねばならん……なんなのだこれは……」
「女の抱き方ではない。ホメロスの抱き方を俺は聞いているのだ。普段もこうしたほうがいいのか」
グレイグは素直に指導されたとおりの動きを繰り返しながら馬鹿真面目に聞いた。ホメロスは嫌な顔をして横を向いた。
「普段……など、知らん。この体のいいようにと聞かれたから教えているまで……」
「知らんということはないだろう。全く違うのか」
「ふ……ぅう、す、好きに……したらいいだろう。嫌ならそのとき言っている……。おまえに一丁前に気を遣って抱かれるなど興ざめ……」
「おまえのされたいことをしたいのだ! 普段ももっとあれをしてくれだのこれをしてほしいだのと言ってくれ。現にいつも、抱きしめてほしいと言うだけのことをおまえはやたらと我慢しているから俺はわからず……」
「ッ……お~ま~え~は!」
顔を真っ赤にして何かを耐えていたホメロスはついに耐えきれずグレイグの側頭部を平手で殴り、ベッドの上に立ち上がった。大の男(大大の男と中くらいの男)ふたりが寝ているベッドとはいえ立つには十分なつくりではないのではないかと思い、グレイグはなんとなくあわてて脚を支える。見上げるグレイグに金髪の年増美女はやばい怒りと侮蔑の顔で唾を飛ばしてきた。
「言葉責めのつもりなのかそれは、お粗末な! いつも何かと指示はしてやっているだろう! 生意気は指示を完璧にこなしてから言うがいいわ!」
女性の、いやホメロスだが女性のこんな顔初めて見た! とドキドキしながらもグレイグはなんとか言い返す。
「いや、なんというか、指示だろうそれは! 行軍の作戦を教えてくれるのと同じで、俺が行こうとする道を導いてくれている。もっとこうおまえの……」
「教えておいてやろう、そういうのをなぁ、くそっ脚を触るなもう集中できん! そういうのを『おねだり』だとか『言わせたがり』と言うのだ、馬鹿に都合のいい本ばかり読んでいる奴はさすが妄想だけは上級者だな! ドヘタクソが!」
ドヘタクソが! ドヘタクソが……ドヘタクソ…………。
平原に響かんばかりの力ある罵声に、グレイグはしゅん……とうなだれた。ホメロスはまだ顔筋をひきつらせている。
「……すまん……」
「……フン、萎えたか。おまえが高望みをするから悪……」
「ぜんぜん萎えん……」
ホメロスは拳を震わせながら足元を見た。相方の股間の肉棒はばっちりと天を向いて露に濡れている。びくんと重たげに揺れる瞬間さえ見てしまい、ぐうう、と唸って座る。
「そんなもの入るか……。まだましな今のうちになんとかせねばならん、少し萎えろむしろ」
「あっ、痛いなら、入れなくとも……。もちろん、いくらでも慣らすぞ。させてくれ」
「お……っ、貴様! 女のスカートにいきなり手を突っ込むなど!」
めげず忍ばせた手を踏んだり蹴ったりされグレイグはとりあえずスカートの中から戻ってきたが、やわらかなふとももが表面をねっとりと濡らしているのを確かに、一瞬触った。
収穫に涙が出るほど感動して礼拝するように手で手をおさえ額をつけるグレイグ。ホメロスは気付かれた衝撃で髪に顔を隠してうなだれる。悪態をつきながらとろとろに濡れていた。
「お……おおおお……!」
「馬鹿が……馬鹿がいる……もう嫌だ……なんでこんな奴に……」
「す、すご……い……、よかった、ちゃんと気持ちよくなってくれていたのだな、ありがとう……。ホメロス、ありがとう……!」
「うるさい何がありがとうだ! 自惚れるな、おまえなんぞヘタクソだというのは本当の本当なんだからな、なんだか知らんが生理現象で濡れてしまうだけだ」
「ホメロスは、濡れやすいのだな? それは良かった……。俺の少ない経験だが、そこまでにしてくれた女性は……」
「あーあー、もちろんそうだろうなあ! ご婦人がたに同情するわ! これは彼女らと違い俺がおまえにおっそろしくむかついているからだ」
「さっきは無断ですまなかった。触っても……いいだろうか?」
もう悪いことは聞こえなくなってきている馬鹿の手をホメロスは押しとどめた。グレイグの荒い指はおそらく痛い。指入れを拒む娼婦もいたであろう。比較的硬く頑丈な男の体の尻にならまだ我慢できるが、女の場所にはきついと思われた。なにしろオランピアはいつも自分で準備して乗っかり、男にそれを許したことだになかった。
「やめろ、おまえの指は女には痛い。自分でやる……」
「あう……そうか、すまん……。そうなのか……。だがおまえのその細い指では」
「道具があるから」
ベッドサイドの抽斗からホメロスは胡乱な棒を取り出した。グレイグが暗さに目を凝らして見るとそれは大きめサイズの男根をかたどったもので、大きさこそグレイグのそれに及ばないが何やら禍々しい、幼虫を思わせる突起などがついていた。グレイグはピャーと跳ねた。
「な、な、なんだその、それ……。ホメロス、そんなもので自分を……」
「うるさい……。これは新品だ、おまえをかわいがるときに使ってやろうと思ってな」
「ひいい……」
青ざめて少し頭と股間を冷やしているグレイグをよしよしと見て、ホメロスはその恐ろしげな張型を剣のように突きつけてグレイグをベッドの壁際まで追いやると、くるりと背を向けて脚の間にどっかり座った。脚を撫で上げながら少しずつシーツのドレスの裾をずらし上げる動きに、はっとグレイグは注目する。
「う……わ……。色っぽいぞ……、ホメロス……」
「あまり興奮するな。少し待て……。触りたいなら触っていろ。ただしさっき言ったようにな」
そう言うとホメロスは息を吐いて、黙った。もちろんグレイグは触りたかったのでホメロスの手を邪魔しないようにやわやわと胸の先などを指の甲で円を描いて触った。その動きと関わりがあるのかないのか、時折ホメロスの呼吸が乱れ、体が小さくうねるのが触れ合っている面から感じられた。
あまり興奮するなと言われたが、ぴくぴくと震えている柔らかいホメロスが、見えない位置で自分で自分の中に指を入れているのだと考えると、とても無理だった。そのうちにホメロスの手が張型にのびる。ここへくるともう、血の気が引くようだったそれも淫らな期待を増幅させるものに映った。
「ん……、ふ……、う……ぅ……!」
ホメロスの体が少しのけぞり、強く胸に押し付けられた。先ほどまでとは違う、なんともいえぬ掠れて追われたような声に、張型が入ったのだと知る。嫉妬のような気持も混じってたまらなくなり、寄りかかってくる体をぎゅうと抱きしめた、ホメロスはびくびくと震え、追い立てられた声に途端に甘さが乗る。
「うぁ、あ、あ、グレイグ、」
「大丈夫か? 痛いのかホメロス」
「あ……あ……、そ、れ、離すな、……ッ、はぁああ……!」
ずり下がろうとするホメロスの体をぎゅっと抱いて止める。
悶えがやみ、息を整えるホメロスの股におそるおそる手をのばした。ホメロスは止めなかった。
「んぅ……う」
張型をおさえている片手に触れる。おそらく手首から先は濡れている。そのままホメロスの顔色をうかがいながら、股の中心にも手をやる。どこなら痛がらせないだろうかと考えて、人差し指を曲げて甲を当てた。
「う! ……ぁ」
熱い中心に触れたいという思いだけで、特に深く考えずに触ったのだが、ホメロスはびくりと震えた。慎重にかたちをなぞるだけとひやひやしながら触っていくと、気持ちのいいぬるぬるが指にまとわり、たまらずグレイグは目の前のホメロスの頭に賛美のキスを贈りまくった。
「あ、あっ、グレイグ、ぐれ、そ、うあぁっ」
「ううっ……、ホメロス……ホメロス……好きだ……、気持ちよくなってくれ……、もっと気持ちよくなってくれ……」
「はぁ、っあ、……こ、だ、そこ、それぇっ、ああ、あ……、いいぃ……!」
女性のそこに神経の集まっている宝石があることくらいは知っていたが、正確な位置を押さえられるとは思えなかったのでグレイグは太い指の関節の間を当てて遠慮がちに動かした。するとどんどん白い脚が開き、小さなつま先がシーツを掻き、ぬるぬるがとめどなく供給される。ずりずりと下がっていくホメロスを支えようとして手が乳房をつかんでしまう。痛かったかと思ってはっとした。
「だ、大丈夫かホメロス⁉」
「あふ、なんだ……、ン、ん、い、あっ、……っあ! 嫌だ、イヤ、だ、はな……っ!」
盛り上がっていたホメロスが突然拒絶の言葉を出したので、やはり痛かったかとグレイグは乳房を持ってしまった手を離す。そうするとホメロスの頭はもはやグレイグの腹ほどに落ちてしまい先走りの露が容赦なく金髪を汚す。ホメロスは激しくかぶりを振った。
「ちが、う! そっちじゃない、手、指をはなせ、はなせ」
「え、気持ちよくなくなったか⁉」
「ちがう、おまえが、おまえが欲しい! だから……!」
滅多に聞けぬ強烈な言葉にグレイグは固まった。その隙をついて手を払いのけたかったのか、ホメロスの手がのろのろと宙をさ迷った。そして息を吐きながら張型を抜き出し、ぽいと床に捨てた。
「だ、大丈夫か。動けるかホメロス?」
「さわる、な……。ひとりで起きられる……」
背中から発される厳しい威嚇にグレイグは気遣う手を止める。震えながらもひどく気高く髪を揺らし、宣言通り一人で起きたホメロスは背を向けたまま床を指差した。拾えというのかと思い、実はホメロスの温かい中に入っていた道具が気になっていたグレイグはベッドから降りた。
「ちがう。それは捨てておけ。洗うのはあとにしろ」
本当は洗いにいこうとしたのではなくまだほかほかしているのを触ろうとしたのだが、一応『そうか、ホメロスがそう言うなら』みたいな殊勝な顔をつくってグレイグは振り向いた。すると窓からさす月明かりに向かって、これまた天国のように美しい光景が広がっていて目が眩んだ。
ホメロスが立てた膝を大きく開き、ベッドのへりに腰を突き出した格好で見下ろしていたのだった。
「な……ホ……なんという……」
「いちいち拝むな、気持ちの悪い。そこへ跪け」
ベッドに座ったホメロスに跪いて愛撫をしたことはあったが、こんなに美しく脚を開かれたのは初めてのことだった。第一男の体ではこんなに柔らかくはいかない。言われた通りに膝をつくと、ホメロスは自分で裾をもちあげ、開帳した。そこはきらきらと光り、男のホメロスが興奮したときともまた違う桃のように甘いいいにおいがぷんとした。
「……舐めろ。客にさせたことはないが……許す……」
「本当か……!」
グレイグは目を潤ませて喜び、腰をつかんでしゃぶりついた。一瞬生娘のように縮こまってから、意地でもホメロスは悠々とした姿勢でそれを受けた。
先程指で触っていた小さな箇所もつんとして、より細かく場所がわかった。裂け目は大きな張型が入っていただけあり、やわらかく舐め上げるだけで中へ誘われるようだった。ぬるぬると粘膜を触れ合わせるのはとろけるように気持ちよく、ついグレイグは舌を中に突き入れてキスをした。
「う、う、はぁっ!」
「ん、ぢゅっ、ふーっ、んっ……、んっ……」
「う……う……、グレイグ、ぶ、あっつ……! おまえのっ、舌ぁ……! すご、ああ、う、」
「ん……、んぅ……!」
厚く大きなグレイグの舌はいつも、口づけのとき口がいっぱいになって息ができんと圧迫感を指摘される。それを今は喜ばれているようだったので嬉しかった。入り口はひくひくと不規則に収縮して舌にもぬるついた唇にも刺激を与え、涎が止まらずシーツが汚れていく。
「……っ、痛くないか、気持ちいいか……? したほうがいいことはあるか……?」
「あっ、い、い……。も……すこし、ゆっくりしろ……。ゆっくり、出し入れ……して……」
「ん……」
希望を聞きながら、性器と性器の交接のようにゆっくりと少しずつ入れ、抜き出すを繰り返す。早く自分の中心でそこに重なりたい、とそればかりで頭がいっぱいになりそうなのを抑えて、びくびくと絶え間なく大きくなっていく震えとうっとりした声を必死に感じる。
「あ……、は……、はぁ、はぁ、ぐ、……れい、ぐ、はぁ、はぁっ、ああ、あう……」
「ん」
「ゆび、……で、さわれ……。上の……っ、その……」
震えた声に命じられて、さっきと同じようにだろうか、と鼻先にあるだろうそこを人差し指の関節あたりで探った。気丈に命令する声が、しかし少し怯えるようだったので、強くしないよう心がけた。
「ふぅ、はぁあ……! あ、い、や」
「む、んっ……! ん」
「や、ああう、グレイグ! グレイグ、いやだ、いや、いやだっ、あああ!」
嫌と声が拒否したので口と手を離そうとしたが、その前にホメロスの手に髪を掴まれ退却を封じられた。矛盾した指示に混乱して止まるが、止まっているグレイグにホメロスは震えながら腰を押しつけてきた。
「はぁ、あ……、あ……、グレイグ、グレイグ、ぐれいぐ。や……、うぁ……、も……、
も、ぉ、あっ、うっ、うっ、……っうっ、んん……~~っ!」
ひときわ高い声をあげ、ホメロスはきつくのけぞった。妙なるせつない声と、跳ねるような大きな動きにグレイグはいちいち胸がいっぱいになり、顔をびしょびしょにしたまま呆然としている。そうっと顔を離し、手でぬぐって舐めてみたりなどしながら立ち上がると、ホメロスはなんとか肘だけはつき、目を閉じてまだ感覚に浸っているようだった。
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