コラムーフリーズドライ
凍結乾燥って、熱乾燥よりも食材の風味や食感を保持して保存することができます。水分の入っていた穴がしぼまずに多孔質になるため、スポンジのように素早く水や湯を吸い込み「戻る」性質もあり高い利便性をそなえます。
でもその加工法は「ものすごい凍結」状態を作らないといけないわけですから熱乾燥よりはるかに難しくて、実用化には二十世紀まで待つ必要があります。現代では人為的に素材の周りの気圧を高度七万五千メートル相当に下げ、水の沸点を氷点下にすることで素材の中の水分を蒸発させるという工業的でダイナミックな方法がとられています。この水分が蒸発した後の微細な穴が、多孔質になるんですね。
凍結乾燥に近い加工としてインカ帝国のジャガイモの低圧保存、日本の「高野豆腐」などがあります。高山地帯では気圧の低さや温度湿度の低さ、昼夜の寒暖差といった凍結保存の条件がそろうことになります。南米の場合は低地より高山のほうが都市がつくりやすかったという特別な状況ですけど、基本的には高山のそういった気候条件は人間の暮らしにとって厳しくて穀物も育てにくいものです。「暮らしづらい環境ならではの産物」っていうのはピンチがチャンス、吊られた男のアルカナ、人間が生き抜く窮地の知恵を感じてアツですよね。
小説裏話
作中でも今回の短編でも明言はしていないですが、パルミラの風土は中央アジア(現代のカザフスタンとかモンゴルとか)を想定しています。パルミラの位置やフォドラへの侵略未遂などの歴史的経緯から、またファイアーエムブレムシリーズでは騎乗で弓を使う草原の遊牧民が定番だからです。
詳しくは『いただき! ガルグ=マクめし』にも書きましたが(次回の「ライス編」でおさらい掲載予定です)、中央アジア遊牧民の食べ物は発酵乳を固めた「白い食べ物」と羊肉を中心とした「赤い食べ物」が中心となります。『Fate/Grand Order』のアルテラ(歴史でいうアッティラ・ザ・フン)が羊に乗ったりしてるように中央アジアの遊牧民にとって羊さんなどの家畜哺乳類は重要な財産であり食糧源でありいろいろなことに使う資源です。地球全体を見ても畜産が発達している地域は「乾燥帯」すなわち大規模な農業が難しいところが多いです。ファーガスにあたるヨーロッパ北部でも乾燥はしてないけど農業に別の困難があるので牛さんや羊さんを育てることがさかんですが。
乾燥しているせいで麦農業を行えず
→家畜から乳や肉をもらうという技術を発展させ
→その結果定住せず草原を駆け巡る遊牧民となり
→遊牧民であるからこそ機動性や馬の操りや騎射に長けた特殊で精強な戦士たちとなり、
アッティラ(くらいの時代がフォドラの首飾りやガルグ=マク士官学校を作るきっかけとなったパルミラの侵攻にあたるのかな)やクビライなどの時代には爆発的に勢力を伸ばしたりもしたというわけです。
個性というのは「できること」よりも「できないこと」から生まれるのですね。じつにファイアーエムブレム的なことです。今作は「できること」の自由度が高すぎてじゃっかん「ドラゴンナイトにしとけばいい」みたいなことになってるのは否めませんが。弓ドラゴンナイトは反則だよ。だって戦闘機だもん。おい聞いてるかクロード
現在のモンゴル料理では、羊肉や発酵乳に加えてけっこういろいろな野菜が使われています。首都ウランバートルを含む北部では野菜が育てられています。キャベツとかカブもね。
風花雪月小説
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