【R-18】アミューズ・3月 海老と白ワインビネガー サラダ仕立て - 6/6

カムイ様? と、疑問の声を発そうとしたが、うまく声にならなかった。

一人でああしようかこうしようかと画策しているように見えたのもあって、不敬ながらジョーカーは指の一本も動かさないままカムイが自分の近くで何かやっているのを感じていた。ややあって、腰を両手でつかまれる。ああ抱いていただけるのだ、と、種類の違う快楽の予感にまた欲望がよみがえってきた。が、つかまれた腰はそのまま、転がすようにクッションの山の上にうつぶせに反転させられた。

「え……あっ……?」

「ジョーカー、そのまま力抜いていてね」

こうかな、ここにもう一個かな、とクッションの上で体の位置を微調整され、軽々とされるがままの赤ん坊になったようで羞恥心が襲ってくる。果たして寝台の上でゆるやかに尻をもちあげ脚をのばした格好に固定され、これではうつ伏せ寝のまま動けない、と気付く。

「カムイ、さま、これでは」

「ジョーカーは今日はなんにもしないで。今日は、気持ちよくなるのが仕事だ。いいね?」

「ひ、ん」

尻を撫で上げられ、撫でられたままもう片手の指をぬるりと入れられる。いつもと違って恥部をしっかり、突き出すようなかたちで見られている。後ろから抱かれることはあるがそれはほとんどカムイが竜になっている満月で、こうして落ち着いて抱き合うときにはとにかくジョーカーが何か奉仕を捧げたくて手や唇を動かしている。腰をそらして、何もできないし、しようとする気概を奮い立たせようとしても、この体勢で中をぐちゅぐちゅといじられるとこのままでいたいと思ってしまう。

「あ、うん、はぁ……う……」

「んっ……と。こうかな……ここかな。もうちょっと、油足すね」

「は、ご、ごめんなさい、ごめんなさいカムイ様っ……」

「だめだよ、謝っちゃ。ちゃんと仕事をして。僕は今日ジョーカーに気持ちよくなってほしいんだ。気持ちいい?」

「き、きもち、あぁ、気持ちいいです……っ」

「うん。えらいねジョーカー。いい子、いい子」

「く、ああ、ありがとう、ございますっ、ああっ、あアぁ……!」

尻を撫でていた手が背中にかかる髪束をすくい撫でて、ジョーカーは褒められていることに喜ぶ。どこにも力を使うことなく弛緩しきって、はしたない声をあげて腰を揺らすたびに撫でられて、こんなのに慣れたら駄目になってしまう、執事でなくただの犬になってしまうと頭が警告している。しかし今だけはと、主がそれを仕事だと言っているのだからと、頭をごまかして浸っていく。

「ああっ、あぁ、いい、カムイさま、ください、カムイ様をください。そこ、そこに、早く、早くっ……!」

「うん……うん、入りたい。とろとろだ……。待ってね……」

いつもの後背位のように力が抜けそうだからではなく、ただただ快感にかくかくと腰が揺れる。指より熱く太いものが圧し入れられたとき、つま先をびんと硬直させて低く長く吠えた。一瞬、意識が弱く途切れる。

「ジョーカー、……ジョーカー、ああ……」

「ひああ……ああ、……ウ、うううっぅ、う、んぅうあ……」

押し出される、という風情の獣じみたうなり声をカムイは気に入ったらしく、機嫌のいい笑みの気配とともに抜き差しが始まった。高く固定した腰を片手だけでつかんでそこにずぶずぶと引いては打ちつけ、上半身でぴっとりとジョーカーの背中に乗る。仔犬が母の背に乗り上げて眠るような甘えたしぐさと頬ずりがジョーカーを蕩かす。

「あっ、……あっ、……ふあぁッ、あぅ、」

「ジョーカー、いい子だね。上手に力が抜けてるよ。もっと僕に全部まかせてみて」

「あふ、あ、……アッ、……あああっ、あ」

自分の体のかたちもわからなくなるような脱力の快感の中で、ただ突かれるたびに声を吐き出す不定形のいきものになる。頭のどこかで確かに俺は包丁を入れられたエビみたいなものだと、カムイ様に抱かれれば犬以下だと思う。

「そう、いい子、いい子。抱っこしてあげるよ」

「ああああ……あ……!」

胴をぎゅっと抱きしめられながら届くところまで入れきって突かれて、ジョーカーはクッションの山に被せた敷布の中に絞り出されるように射精した。カムイはジョーカーの途切れ途切れの吐精が落ち着くまで抱きしめていてやり、それから体を起こして今度は両手で尻をつかんで速く激しく腰を振りたてた。

「あっああッ! ア、あ、い、ああっ」

「んっ……、んっ……、……んぅうっ」

「ッはああぁ……!」

カムイとしては手早く自分の射精に付き合わせたつもりのようだったが、突かれて人形のように力なく揺れたジョーカーも今度は内側だけで達した。眉間にしわを作り涙と涎でぐちゃぐちゃになっている苦しげな顔を、カムイは体ごとやさしく上向かせ敷布に水をさして拭いてやった。

 

だんだんと人間らしい理性が頭に戻ってきて、ジョーカーは薄目を開けた。本当にもう人間をやめたように、言葉も忘れてとろとろになってしまっていた先程までが思い出されてくる。今は楽な仰向けにされ、腹をかるく拭われている。たぶん敷布とのあいだに出してぐちょぐちょに腹にこすりつけたはずの精液だろう。拭いてくれているのは主の手だ。ああ、もったいない。動かなければ。でも、幸せで体が重い――。

というジョーカーの幸せなまどろみは、萎えた陰茎をまたも舌ではじいてきたカムイによって破られた。

「ああっ!? う、カムイ、さま、もうっ、」

「ああかわいい。かわいいジョーカー」

弱弱しくもがくと、カムイは片方の腿を抱えもう片手の指で先程まで結合していた穴を広げのぞきこんできた。あまりに恥ずかしくて鈍器で殴られたような衝撃だったが、カムイは屈託なく嬉しそうに笑った。

「カムイ様、おやめください! そのようなところ、み、見ないでください……!」

「ふふ、出てきてる」

カムイはジョーカーの抵抗をものともせずに、そのまま指を入れていじりまわしながら前もくわえこんだ。強烈な刺激に腰が跳ね、自由な足がつい肩を蹴ってしまう。

「あっ! ごめんなさ、あうぅ駄目です! もう無理です出ません」

「んー? らさなふふぇも、えけうんえひょ?」

「い、いけ、るかもしれませんが、たぶんいけますが、あぐっ……!
こっ、こんなことっ、まだ俺もしてさしあげてません! おれ、おれがしま、すっ!」

「んっ……。じゃあ、今度僕にもしてくれ。約束だよ。んん……」

「うぁ、カムイさまああ!」

結局その日はまた思考力が吹っ飛ぶほどとろとろに愛され、ジョーカーはされてばかりで何もしていないはずなのに後日今までにないところが筋肉痛をおこしたりした。カムイは終始楽しそうで、もとから傷の多い白い肌に吸い付き、紅い噛み痕をたくさんつけた。味わうように、内腿のやわらかさに浮いた汗を舐めた。

 

ほとんど気を失ったようにして疲れて寝ているジョーカーにそうっと毛布をかけて、カムイは寝台の横の抽斗を探った。小箱をひらくと男物のジャケット用の銀鎖がうすい月明かりに光り、太さの違う二重のそれをジョーカーの胸にのせてみる。ひやりとして、一瞬ジョーカーはうめくが目は醒まさない。それを確かめてカムイは満足げにいろいろな角度から眺める。

「やった。きれいだ」

鎖の始点のピンには紫がかった青の鉱石がついていた。ロウラン王城に残されていたシェンメイ王妃の遺品、それと混ざってあった王妃の妹であるカムイの母ミコトに贈られた装飾品の中のその石を、カムイはジョーカーに贈りたいと思っていた。たそがれ色に光る石はアクアのペンダントにはまっている竜石とも似ている。
「ここに穴でもあけたらいいのかな?」
ピンで乳首の上の空気だけをはじいて、聞かれていたら本当に実行されかねないので小声でつぶやく。母の思い出と、正装のジャケットの上のように格好良く鎖を配置した白い裸の胸を重ねて慕い、カムイはふにゃりと笑った。

「ジョーカーはきれいでおいしい」

生の喜びのすべてはここにあるのだとカムイはほのかに紅い白の体に寄り添った。自分が主に贈ったもののことなど忘れ、贈れているものがあるとも知らないで眠る執事は、夢にまた帰しきれぬお返しを考えていた。

 

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