【R-18】ソルベ・7月 花とライチのシャーベット - 4/4

会談を終えてエリーゼとサイラスが帰り、カムイとアクアの普段通りの夕食を終えたあと、ジョーカーは主に耳打ちをした。

「よろしければ湯浴みの前に、花畑にお散歩されませんか? 宵の花も美しいのです」

艶やかで、低く響く落ち着いた声にカムイは心地よくなってそれが逢瀬の誘いだと自然に悟った。少し後からおいでください、と言うのに従ってしばらくしてから外に出ると、陽が長くなってきた宵の空は紺青から桃色のなめらかな色をしていた。

カムイの姿をみとめるとジョーカーは花畑の中から歩み寄ってくる。銀髪は夜の色に染まっていた。すらりとした仕草の歩きすがたが背にした花畑は生気にあふれて、かすかによい香りがする。たまらなくなってカムイは駆け出して夏の夜の空気ごとジョーカーを抱きしめた。

「わっ、カムイ様」

はにかんだ声で応じて、もぞもそとするのでカムイは抱きしめた体を放してやった。ベッドでじゃれあうときのように親密な視線を交わすと、ジョーカーは跪いて後ろ手に持っていたものをカムイに捧げた。

「私と踊ってくださいませんか、愛しい方」

少しだけおどけて、甘い声で差し出したものは、背にした花畑を雫にしたような花束だった。跪いた体にそった薄手の黒のベストとスラックスも、蒼い夜をそこに塗り固めたように見えた。カムイは目を輝かせて花束を受け取って香りを吸い込んだ。

「喜んで。僕の大切な人」

そう返すとカムイも跪いて花束を持った手をジョーカーの腰に回し、二人して立ち上がった。ジョーカーは跪いてダンスに誘ったというのに女性の型をとり、それは奇妙な情景だったが、二人は笑って踊りだした。

「なんだか久し振りだね」

「カムイ様は暗夜のパーティーでカミラ様とも踊ってこられたではありませんか」

「ありがとう。ジョーカーが女の人のステップを踊ってくれるおかげで覚えられたよ」

「いいえ。昔からそう言ってくださいますが、私のこれは女性男性関わりなく、カムイ様専用ステップです。ですからお気になさらずに」

「ジョーカーのをずっと見てたから、僕もできるようになった」

組んでいた両腕をぱっと離すとカムイはジョーカーの手をとって男性の型をとらせた。ジョーカーは抗わなかったが、少し焦った声を出した。

「カムイ様、こちらは練習されなくても」

「練習じゃなくて本番だよ! これは僕のジョーカー専用ステップだもの」

もはや社交することのない身となった男はかつて主人のためだけに女の型を身につけた。それを不自然なこととは思わなかった。はにかみながら、男性側のステップを今初めて人と踊った。自分の選んだ生き方には不要なものだ。利益になることはないだろうことが誇りでもあった。けれどその不要を、カムイが楽しそうにしてくれて、よかった、と思った。

「ジョーカー、もっと腰を強く引き寄せるんだ」

カムイは歌うように指導した。言われた通りに腰を強く抱き、やがて足は止まり、影はぴったりと抱きしめあう。花と愛する人のにおいを、幸せを胸に満たして、ジョーカーはきつく腕を絡めた。

「愛しているのです」

初めて言うように真剣に告白して、花を浮かべた湯を使い、愛しい初夏の夜はそうして更けていった。

 

同軸作品

送信中です

×

※コメントは最大500文字、3回まで送信できます

送信中です送信しました!