後ろから踏むみたいに抑えて抵抗を封じる、征服的なすごい体勢を求められてドキドキというよりはハラハラした。まあツイスターゲームやってて似たような状態に陥ることはあったかもしれないけどさ、今は身も心もお互い全裸だし全然違うよ。
痛くないように脚をロックして被さってみると、ブラザーはほっとしたみたいな長い息を吐いてた。僕を蹴らないですむ、僕と体が組み合わさってるのが嬉しい、怖いけど信じられる僕がいて頼もしい、そんな気持ち……なのかな。そうだったら嬉しいな。
「触るよ」
浮かせてくれてるすき間に手をしのばせていっただけで、触られる前からソーンズははぁはぁいっていた。つばを飲みこんでうなずくのが見えた。こんなに不安そうな冒険のこわばりは久しぶりだ。また一段……秘密の隔壁が解除されようとしてるのかもしれない。僕も緊張とえっちな興奮で喉を鳴らした。
敷いてくれたタオルを使うことにした。布ごしに遠火で、さっき触っていた片方に触る。これで刺激が強く刺さりすぎることはないと思う。
「う……」
「これでもいい? ちゃんと効いてる?」
「うう、く、いい……。それを……、ああ、アッ……」
「……震えてる……」
かりかり、かりかり、小刻みにひっかいて、振動を伝える。タオルごしでもかわいい乳首がわかる。快感じゃなくて吐き気に耐えてるみたいなひくつきが、体と体の間のわずかな空気にも伝わる。
ブラザーが首を振る。これは、違うね、やめてほしいんじゃなくて感覚に身悶えてるだけか。「止めろと言うまでやめるな」って言ってた、やめちゃだめだ。ブラザーがこんなにイヤイヤ悶えるところ見せてくれるの、はじめて。ただ気持ちいいんじゃなくて戦ってるんだろうけど、僕に無防備な背中を預けてくれてる、すごくすごくえっちだ……。
「う……、あぅ、……さ、触れ。はぁ、はぁっ、触れ……」
「右もってこと? それとも直接がいい?」
「あ゛、……両方……、う、うっ、」
「わかったよ。思いっきり感じてね……」
タオルごしに刺激してたほうを直接の指の第一関節で、かまってなかったほうはタオルごしからスタートで両手でかかった。指の関節の背でくにっと潰すと腰ががくがく震えて、締まったお尻が当たってきた。
「ああ、あ、ぐっ、うっ、うぁ……!」
「う……わ、腰が……ほんとにきもちいいんだ。すごい……大丈夫……?」
「ん、んっ……! んぅ、うぅう~……ッ!」
気持ちいい震えの中でちゃんと伝わるようにって思ってくれてるのかな、何回も強めにこくこくうなずいた。わかったよ、大丈夫、いいよ、ってささやくと枕におでこをうずめて短く息を繰り返して、がくがくがおさまってきた腰がダンスのヒップロールみたいに官能的にうねりはじめる。
「んっ、んあ゛ッ、! う、ぐ、うぅっ……!」
「うん、うん、いいよ……」
「ん……ッ! うあ゛っ、あ゛ぁ゛っ、あ」
楽しく踊ってるというより、そうしないといられない、狂おしい、助けて、わかって、みたいな、必死なもがきと悲鳴だった。うねるお尻が、別に挑発したいわけじゃないだろうに、僕の熱に触ろうとして立ち上がってるおちんちんに慕いついてくる。いいよ、って腰を添わせていっしょに泳いだ。
くに、くに、きゅうっ、かりかり、かりかり……。
ブラザーの背がざぶんと反った。
「あ、あ、波、が。ああ、ああ゛あぁ……っ!」
「怖い? ああっ……、ぎゅってしてあげたいのに、手が足りないよ……!」
「潰せ、体重っ、あっ、あ゛あっ、押さえ……!」
「えっ……と、前に君がしたみたいに? こうでいい?」
「あァッ! う、あ……ああぁー……!」
試しに上半身から腰まで体重でのしかかってみると、夢でしか聞いたことのない嬉しそうな声が絞り出された。
彼がはじめて僕を手でいかせてくれたとき、いくときぎゅっとしたいっていう僕のおねだりを叶えようとして、手が足りないからって体術の制圧みたいにしてできる限りぎゅっとくっつこうとしてくれた。体重で押さえても全身がぶるぶる震えてる。面で伝わってくる。こんなの、こんなのたまらないよ……!
体を圧し潰してるから、乳首への刺激は摩擦じゃなくて親指と人差し指第一関節の間できゅむきゅむつまんで押し潰す動きだけになる。長く短く、繰り返しつまむ、押しこむ。震えがどんどん熱っぽく、ねっちり僕まで糸引くみたいになっていって。
僕ももうめちゃくちゃで、背中にかみついてちゅうってキスした。今は無理だけど乳首舐めて吸って愛したいかもって夢想して吸った。
ブラザーは首をいっぱいに反らして、首のうしろを吸ってる僕の頭に必死で頬ずりしようとしてきた。いよいよ怖いところに潜るから、僕がいるのを確かめたいんだ。後ろ頭にごっつんした。
「好き、好きっ、ブラザー。ここにいるよ……!」
「ん、んっ……、ハァッ、……んぅ……っ」
骨格をぶつけて声をかけると悲鳴がやわらぐ。今、どんな顔してるんだろう。我慢できない、お尻で擦らせてもらえないかな……ちょっと、うまく……合わない……
「うぅッ!?」
ブラザーが鋭い声をあげて跳ねて、遅れてぞわぞわの波が彼の背中を、くっついてる僕の前側を走り抜けた。
セクシーな喘ぎを聞きながら胸への刺激を繰り返してぽうっとなってた僕はつい腰を振ってしまった。それが彼のお尻の筋肉じゃなくて玉の裏に、ずるん!って刺さっちゃったみたい……。
「あっ、ごめん! 僕も腰動いちゃって……、君がすごくて……」
「は……はぁっ……ハァッ……、あ、脚……ッ……、」
息絶え絶えに、脚?って。踏んでた彼の脚を自由にしてあげた。そうしたら僕に踏ませるために肩幅より開かれてたうつ伏せの脚はぴんとのばされる。お尻を少し持ち上げてる両腿が僕のをはさんだ。ぎゅうっ、て。
「うわぁっ、あ!」
「ああ……! くぁ、あ」
ペニスを玉裏と太腿にむっちり挟まれた僕だけじゃなくて、挟んだ彼の側も追い詰められた声を出して大きく震えた。気持ちいいのかな、そこ。彼がいつも意識してる会陰がある。熱い気がする。あったかくて……、ていうか、これ、素股ってやつ。ほとんど本番セックスじゃない。戸惑いながらも乳首へのきゅむきゅむ刺激は続けてると、挟んだままでまた腰がうねりだした。
「うぁっ……、いいの? こんなの、していいのっ? ああ、あっ……、」
「うっ、触っ……て、やれない……! これで我慢しろ、好きなように、擦れ」
「あっ、がまん、とかいう問題じゃ、あっあっ、きもちい、気持ちいい……! ブラザーっ!」
圧し潰してる体の、お股に、じゅぷ、じゅぷ、って腰を振る。乳首を潰しながら、内腿と会陰をずりずり擦ってる。
のしかかられて潰されて望まない行為をされてるみたいに泣いて暴れ出す体。でも違う。がくがく震える腿が擦り合わされて必死に僕を抱きしめようとする。胸の上で体を支えてた手が僕の腕をつかみたがって困ってる。こんなにいっぱい触ってるのに。握るのは僕じゃなきゃ嫌だって。どうして僕はキララちゃんみたいに腰から触手とか生えてないんだろう。リーベリから生えてたらそれは海の怪物にやられちゃってるか。仕方ないから持てる限りの二本の手で一生懸命に愛した。
「ひっ、うっ……クッ……! あ゛ぁっあ……! エリジウム、エリジウム!」
「うん……!」
「くる、くっ……る、離すな、」
「うん、うん、離さない。ちゃんといるから……!」
泣いてる声に、命綱みたいに言われた。僕も泣きそうに嬉しかった。離さないよ。波が来ても。どこまでも行って。
擦ってる会陰がどくどく収縮した。そこから頭の先までみたいに、繊細で深い振動が僕の胸も撫でて駆け抜けた。
「あ! うあ゛あ! ぐっ、……ぅうううぁー……っ……!」
「ああっ、ん、すごいぃっ! はぁっ! はあぁ……!」
僕もそのあたりがどくどくするのを感じて、お尻に思いきり腰を押しつけて脚の間に出した。鼓動の高まりのセッションが、一緒に余韻をひいてゆっくり幕を下ろしていった。
スン、ずっ……って聞こえるなと思って、気だるい体を浮かせると赤い色が見えた。タオル、彼の顔まわりに。
「あっ、えっ! ブラザー! 血が出てる」
なんかデジャヴだった。はじめて一緒にシャワー浴びてだばだばの鼻血を洗ってあげたときとは関係も状況もおもしろいくらい違うけど。
あわててひっくり返して抱き起した。くたっとしていて無抵抗に抱えられてくれた。ソーンズの顔は涙と鼻血その他でどろどろで、目が半開きでぼうっとしていた。かわいくて扇情的だけどそれどころじゃない、久しぶりにまた彼の体の中の海への情動がひどく暴れてうすい粘膜を破って出ちゃったんだ。僕としたことが気付かないで夢中で腰振っちゃってたなんて……。
「大丈夫? もう止まってはいる、みたいね。どこか変な感じがする?」
「……」
眼球だけが動いて僕の方を見やった。大丈夫? 僕のことわかる?
「ブラザー、僕だよ……。しゃべらなくてもいいけど、大丈夫だったらキスかハグかナデナデか何か愛情表現をして……」
「……、……」
息してるのかもあやしい静かさで、ブラザーは手を這わせて僕の首にきゅうっと抱きついてくれた。よかった……正気だ……。いいのかやばいものなのかはまだわからないけど、深い余韻に酔ってるんだ。
首をホールドしてくれたから、そのまま抱っこしてバスルームに行った。明日普通の仕事だって言ってたのに無理させすぎちゃった大丈夫かなと思ったけど、ブラザーは足で器用にドアノブを動かしたりバスルームの床にはちゃんと立てたりしてなんか元気そうかも。くてんとしたのは甘えてみただけなのかな?
「オキシトシンとドーパミン」
顔を流してあげて体の方にとりかかってると、突然ブラザーは明瞭に発言した。
「へっ? なあに?」
「おそらく、乳首を刺激すると出ることのあるホルモンとそれによって抑制されるホルモンが、兼ね合いで感情的には急な沈み込みと似て感じられたんだろう。そうであるなら問題のある生理反応じゃない」
「お、おぉう乳首の話か……。いや、急に気分落ちこむなら問題はあるでしょう。そんなことがあるんだ。聞いたことなかった……。僕はふわふわ気持ちいいだけだし」
「内分泌の変化のバランスも、同じように出ていたとしてもどんな気分や記憶に紐づいて実際に感覚されるかは各人違って普通のことだ」
確かにそれはそうだし、ブラザー的にも直接的な心の傷が刺激されるとかそういうわけではなかったんだろうけど。泰然と分析してるブラザーは自分がどんなすごいことになってたか見てないからそんな冷静なこと言えるんだよ。僕は、泣きながら頼ってもらえるの嬉しいって燃えちゃったけど、あんな強度のダウナーな気持ちよさってプレイにしても心身によくないんじゃないかな……。
「すごく、つらそうだったよ。今は総合気持ちよかったかもしれないけど良くないよ……」
「いや。沈み込みだけじゃない。オキシトシンは安らげる関係の相手との肌の触れ合い全般で出る幸福と鎮静と愛着の作用のあるホルモンだ。オーガズム時にも多く分泌される。鎮静効果のダウナーが強く表に出たかもしれないが、感覚としては両面が同時に来ていた。良かった」
自信と満足感にどっしりとした、「良かった」だった。
なんだか大丈夫そうだった。血の騒ぐ大波に襲われたのもそれがどうしたって感じ。そういう、えっちな話をしてるとも思われない、実際自己修養の話でもあるらしいどっしりは……惚れ惚れするし嬉しいけど……。僕の方は納得が追い付かない。
両面が同時に来た、って? 波に沈む不安な感じとあと何? 僕と触れ合う、安らぎと幸せと愛着……?
「激流に抗って綱を引いておまえを掴む、そんなふうに手ごたえのある恐怖はそうそうない……」
今しがた追い込んできたトレーニング器具をおすすめするみたいに、疲れるくらい踊りきったときみたいに、目を閉じて満足痛快そうにブラザーは言った。
不安になるけど僕がいて、こわいのにもがきながら対峙できるのが、それこそがやりきる感じで昇りつめて幸せで気持ちいい……ってことなの? とにかくあまあまえっちにしたらいいわけじゃないんだ。
難儀かもだけど、挑戦するアスリートのブラザーらしいなとも思った。そもそも僕が恋のパートナーに立候補したことを受け入れてくれたのだって、こいつは自分の気持ちをわかってないから、主に「怖いことに挑むため」だったものね。
「わかったよ。触っていいってことなのね?」
「おまえの気が向いたなら」
こうして調査すべき嵐の海域、神秘の金脈のありかは発見されたのだった。ブラザーはもうすました無欲な顔に戻ってた。だけど嵐をぬけたあとの、雲間の光を浴びたみたいに、濡れて金色に光って見えた。
悲しい乳首症候群。いや、本当にそういうのがあるんだよ。乳首の刺激によるホルモンバランスの変化で人によっては気分がダウンするっていうことが。女性の授乳時に気分がズーーン……なるとかは真剣に大変なことだからエロネタだと思ってはいけないのだけれど、「不安なとき、気持ちが強烈に沈む危険なときに愛する人がそこにいてさらけ出せる」っていうのはまさにセックスの芯をとらえてると思うので。
ソーンズが「こわい」って言ってくれるのってそれだけですでにめちゃくちゃ愛と信頼と冒険だもんね。
15話からこの続きを収録した書籍版、および1話~14話を収録した書籍版を通販中です。
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